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01 INTERVIEW

シティポップの世界観じゃなく、
それを唄うミュージシャンへの憧れなんだ

インタビュワー

ハグトーンズ メンバー紹介

――そうですね(笑)。もう一つ『SOUND BURGER PLANET』から大きく変わった点として、バックバンド・ハグトーンズの存在が挙げられます。かせきさんって、それまでは同世代とワイワイ、もしくは上の世代にかわいがってもらって(笑)、音楽を創ってきたという印象があるじゃないですか。そこから一転、今度は年下のバンドをマネジメントする立場になったわけですけど、どうしてスムーズに移行できたのでしょうか。世のサラリーマンはたいてい管理職になって苦労するものなのに。しかもかせきさんは、ずっと年下の扱いが苦手だったともお聞きしましたが(笑)。

かせきさいだぁ

あの13年間は年下への苦手意識を克服する期間でもあったのです(笑)。マネジメントって言うほどのものではなく、頑固な監督役が板についているだけかもしれませんが。

ハグトーンズは、ポメラニアンズ~THE DUB FLOWER が母体のバンド。いとうせいこうさんから彼らを託されたかたちですが、それでも「かせきさんのバックバンドをやらせてください!」という彼らからの願いを3回も断っているんです(笑)。当時は絵や他のユニットですごく忙しかったから、冗談じゃないよ、と。結局は、絵の個展のイベントがきっかけで一緒にやるようになったんですが、彼らは僕の頑固者ぶりをわかったうえでついてきてくれてるので、うまくいっているのかもしれません。それは本当に感謝していますね。

インタビュワー

――頑固者でもみんながついてくるのは、かせきさんが若い人たちからリスペクトされる対象になっていたからっていうのもあるでしょうね。

かせきさいだぁ

それは言われました。2000年代になると、若者たちが「90年代のJ-POPかっこいいじゃん」とイベントをやるようになったそうで、聞けばそこでかせきさいだぁの曲をよくかけただいているらしく。「かせきさん、知らないかもしれないけど、若い人たちに人気あるよ」と(笑)。

インタビュワー

――ハグトーンズと一緒にやるようになって、トラックのサンプリングが封印されて、もがれた半身は回復しましたか?

かせきさいだぁ

完全に回復しましたね。欲しい音があれば、ハグトーンズの演奏で表現すればいいので。

それでは実際、どうやって曲を作っているかというと、まず鼻唄でAメロ・Bメロ・サビが一通り完成すると、(松本)光由(ハグトーンズのギター担当)に、僕の頭の中で鳴っているコードを起こしてもらいます。「そう、それ!」とか「違う!もっと切ない感じの響き」みたいに。その後、起こしたコードをもとにみんなでジャムセッションしながらアレンジしていくという流れです。

そこに僕が適宜口を出してアレンジを固めていくんですが、僕がヒップホップ的な感覚で考えるからか、バンドマンであるハグトーンズのメンバーには思いつかない発想ばかりらしく、指示するたびみんな半信半疑でとまどっているのがわかります。ところが、いざみんなで合わせてみると、はっと顔を見合わせて「あれっ、なんでこんなにかっこいいの?!」と。そんな瞬間が面白いですね。ま、ダメな時は全然はまらないんですけど(笑)。

インタビュワー

ドゥービー・ブラザーズ (The Doobie Brothers) : アメリカ合衆国のロックバンド。 (Wikipediaより

――生バンドによるブレイクビーツですよね、それって。今作『ミスターシティポップ』で言えば、M-4「恋の呪文はスキトキメキトキス」のアレンジは、The Doobie Brothers “What a Fool Believes”を下敷きにしているとのことですが、「♪そうね女の子~」のマイナーコードの響きに、ピアノのリフが重なる箇所は鳥肌ものですよね。ここは特にブレイクビーツぽい発想のアレンジだと感じました。

The Doobie Brothers「Minute By Minute」

かせきさいだぁ

そうですね。ここはまさにハグトーンズマジックが働いた、聴きどころのひとつだと思います。

インタビュワー

――となると、「ヒップホップのアプローチでポップスをやる」というデビュー当初からの想いは基本的には何も変わっていないってことになりますね。その不思議な化学反応が功を奏しているんだと思いますが、日本のシティポップ≒海外のAORのはずなのに、かせきさんのシティポップはオヤジ臭が皆無だなあと。

かせきさいだぁ

どんな音楽でも、一度完成してしまって、様式美の段階までいっちゃうとつまらないじゃないですか。だから僕はシティポップの初期衝動、混沌とスリルが隣り合わせの未完成感を大切にしています。実際、洗練しきったシティポップの様式に則った楽曲は、世の中にいくらでもあるので、僕がやってもしょうがないですしね。

インタビュワー

――今作、印象的だったのが、Aメロ・Bメロ・サビ以外にもキャッチーな箇所を、たとえばM-2「さよならマジックガール」の「♪グッバイ、グッバイ…」など、ちりばめていますよね。ああ、どこまでもポップにどん欲だなあと(笑)。

かせきさいだぁ

いわゆる「フック」と呼ばれるパートですね。J-POPや歌謡曲には欠かせないもので、かなり意図的に入れています。しかも今作では女性コーラスを厚く入れているのでよりいっそう印象的になってるかと。普通は円熟や洗練とともに、フックのようなギミックは減らすものだと思いますが、僕はポップを追求することに腹を据えていますから(笑)。

インタビュワー

――そもそも『ミスターシティポップ』というタイトルですが、これはかせきさん自身のことに加えて、先人たちへのリスペクトも含まれているのかなって思ったんですけど。

かせきさいだぁ

ちょっと質問から逸れるかもしれませんが、実は僕は「シティポップ」の中で描かれている世界観への憧れがあるわけではないんです。むしろ「シティポップ」を歌っているミュージシャンへの憧れだけと言ってもいいくらい。アルバムタイトルにはそんな想いも込められています。

インタビュワー

――一方で、いかにもシティポップなシチュエーションで恐縮ですが、夏に海沿いをオープンカーでドライブする時に聴きたいなと思いました。M-10「フリーダム フリーダム!」からM-11「アウトロ」にスムーズにつながって、そしてリピート再生すれば、M-1「ミスターシティポップ」に自然に戻る、そんな構成になっているじゃないですか。ドライブの間中かけっぱなしなんて、すごく気持ちいいと思います。

かせきさいだぁ

これぞツボイ君の構成力!実際、アルバム全体のバランスを見て構成してもらえるように、最後に曲を作ってもらうようにしているんです。ぜひファンの皆さんにもリピートし続けてずっと聴いて欲しいです。あきれるほどにシティ、はじけるほどにポップ、やめられない、とまらない、そんな感じで。