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01 INTERVIEW

俺は日本語ラッパー、もう黒人の真似はしない(でも部屋着はアディダス)

インタビュワー

――そんな中、かせきさん独自のスタイルはいつ頃、どんな風に確立されていったのでしょう?

かせきさいだぁ

一番身近な友だちにこういうすごいのがいるからこそ、とにかく差別化が必要だと考えていましたね。リリック面でも、トラック面でも。

はじめのうちは僕も韻を踏もうとしていたんです。だって、いとうせいこうさんの本にそう書いてあるから(笑)。スチャダラパーはそこに忠実だったけれども、僕は、日本語は韻踏むのには向いていないと早々と判断しちゃったんですね。「じゃあ、どうすればいいんだ」って時に、ふと「俳句のような七五調が、気持ち良いんじゃないか」って気付いたんです。「古池や蛙飛びこむ水の音」的な「声に出したい日本語」じゃないけれども。

一方トラックですが、なんで本場のヒップホップの連中はこんな渋くてかっこいい音楽を知っているんだろうって考えてた時に、どうも彼らは、親のレコード棚から引っぱり出してきて「おお、かっこいいじゃん、これ使おうぜ!」みたいなやりとりをしてるらしいと聞いて、自然と答えが出ました。自分のDNAにある音楽を使えばいいんじゃん、と。

ECD(イーシーディー): 日本のヒップホップ黎明期からのラッパー。(WikipediaよりECD blog

その頃のスチャダラパーも、クレイジーキャッツや「太陽にほえろ!」のテーマを「日本のレア・グルーヴだ」だと言って使っていましたが、僕は「じゃあ、ゴンチチだ」と。それを当時組んでいたTONEPAYS(1990年6月結成)のライヴで披露したところ、ヒップホップ界隈で一気に話題になって、みんなに声かけられましたね。ECDさんからも。

日本のヒップホップ、日本語ラッパーとしてのアイデンティティを作っていくんだって息巻いていた熱い時代でしたね。

インタビュワー

――「日本のヒップホップを作る」とのことですが、ファッション面はどうだったんでしょう?その頃もまだアディダスを着ていたんですか?

かせきさいだぁ

いえ、ステージでは、ボタンダウンのシャツ、ジーパンでびしっと決めて、帽子もかぶらず、髪をセットして、挙げ句の果てには椅子に座って歌うことさえありました。これは、もう黒人アーティストの真似はしないって気持ちの表れでしょうね。まんまだったら本物聴けばよいんだから、そんなのやらなくていいでしょう、と。あ、部屋ではアディダス着ていましたけどね(笑)。

インタビュワー

――先ほどの話で言うと、まずトラック面で注目されたとのことですが、リリック面ではまだ試行錯誤段階だったのでしょうか?

かせきさいだぁ

そうですね。どちらかというと、ゴンチチに続く次のトラックのネタ、それがTONEPAYSにとっての急務でした。レコード屋に入り浸って、日本のレア・グルーヴはもちろん、アフリカの民族音楽に至るまで、いろいろ模索しましたが、最終的にたどりついたのがはっぴいえんどだったんです。

はっぴいえんど『風街ロマン』はっぴいえんど『風街ロマン』

TONEPAYSのDJナイチョロ亀井君が「松田聖子好きなら聴いてみてよ」と、はっぴいえんど(細野晴臣、大滝詠一、松本隆、鈴木茂)の『風街ろまん』を貸してくれたんです。ちょうどその頃僕は宮沢賢治、つげ義春、水木しげるの世界観にしびれていたんですが、「風をあつめて」をはじめとして、はっぴいえんどが描く世界はまさにドンピシャ。

さらにブックレットを読むと、「はっぴいえんどは、日本語のロックを確立したうんぬん」と書いてあるわけです。「僕はヒップホップではっぴいえんどと同じことをやればいいんだ」と腑に落ちるとともに、すべてがひとつにつながった瞬間。

その日は天啓を得たように、リリックを書くのに没頭しました。それが「風をあつめて」をサンプリングして作った「苦悩の人」として結実するのですが、それをスチャダラパーをはじめ、仲間たちに聴かせたところ「何コレ?」って騒ぎになって。「よし、この道でいいんだ」と確信しましたね。

TOKYO NO.1 SOUL SET 公式サイト

そんな矢先にTONEPAYSの解散(1994年4月)が決まって、趣味で細々とやっていくのもありかなと思っていたのですが、川辺ヒロシ君(TOKYO NO.1 SOUL SET )に電話すると、「俺がDJ やるから、絶対やめるな!」と言ってくれたんです。実際、2ヶ月後には本当に僕のDJをやってくれて、かせきさいだぁとして再出発。ひとりになったし、このまま全力でヒップホップのはっぴいえんどを突き詰めていこうと意を新たにしました。

インタビュワー

――その成果が「相合傘」や「じゃ夏なんで」ですね。ここでは、かせきさんのお家芸=本歌取りが顕著に見られますが、トラックはともかくリリックでは、これまでのヒップホップになかった手法かもしれませんね。

かせきさいだぁ

そうですね。ことあるごとになんとか松本隆先生のような表現がしたいと、頭をひねっていたわけですが、下手なものまねでお茶を濁すほうが失礼なんじゃないかって思うようになって。リスペクトしているなら、そのまま使うべきだ、それこそサンプリングのように、と。「俺は信念と最高のリスペクトを持って使う!きっとこの想いは松本隆先生に伝わるはずだ!」くらいの勢いだったと思います(笑)。

インタビュワー

――実際、松本隆さんに呼び出されたそうですが(笑)。

かせきさいだぁ

川勝正幸 公式サイト

はい、共通の知り合い経由で。心配して川勝正幸さんもついてきてくれて。でも怒られないような予感は、なんとなくありました。周りはヒヤヒヤしていたみたいですけど。つげ義春をはじめとして、同じように通ってきた道があるから、勝手に弟子みたいに思ってましたし。その後、ありがたく何かと相談にのっていただける関係になりまして、これで名実ともに弟子を名乗ってもいいんじゃないかと(笑)。