TOTEM ROCK かせきさいだぁ×木暮晋也 インタビュー

取材・文・撮影/勝又啓太
Sketches of Designkasekicider.com 管理人)

でんぱ組.inc の舞台裏

木暮
それからしばらく間が空いて、でんぱ組だね。
かせき

2011年の夏の終わりくらいに、プロデューサーのもふくちゃん(福嶋麻衣子)とトイズファクトリーの人がやってきまして。こんな秋葉原の地下アイドルがいるんだけど、これまでインディーズで出したシングルをまとめたアルバムを出すにあたって新録を入れたい、それをかせきさいだぁにプロデュースして欲しいという話でした。

アイドルはアイドルでも地下アイドル?!って、すごい時代だなとは思いつつも、アイドルへの曲提供なら木暮さんをおいて他にないでしょうと、すぐに来てもらいまして。スケジュールも予断を許さない状況だったから、木暮さんがたまたま空いていて本当にラッキーでした。

木暮

話がきた時にはすでにケツカッチン。レコーディングのスタジオも押さえられていて。アイドルって、きっとそういうスピード感ある業界なんだろうね。

それでまずはプレスの資料で必要だから、曲名だけでも先に上げてくれって言われて。そしたら、加藤くんがいきなり「くちづけキボンヌはどうかな?」ってぶち上げて(笑)。強烈なタイトル過ぎるでしょう。もう大爆笑。

かせき

「キボンヌ」は、いつか使いたいと思っていたキーワードなんですよ。今まで使いどころがなかったんだけど、でんぱ組は秋葉原だから、ぴったりだと。

「キボンヌ」は、ネットスラングとしてもちょっと古くない?っていう意見がありますが、実は古い言葉を使うっていうのは作詞のテクニックの一つなんです。最新の言葉=知らない人が多い=広範囲に届かない、逆に、古ければみんなに浸透しているってことですから。松本先生もそれをすごく意識していて、たとえば「ハイスクールララバイ(イモ欽トリオ、1981年8月5日発売)」も、「摩天楼のヒロイン(南佳孝、1973年09月21日発売)」も、子供心に「古いなあ、いつの時代だよ」なんて思っていたけど、実はそういうことだったんだと大人になり膝を打ちました(笑)。

というわけで、アイドル曲でこのテクニックを試すのは念願で。「くちづけ」っていかにもアイドルな言葉に、古くて、強烈な言葉を組み合わせるっていうのを。

木暮
その目論み大成功でしょ。30分くらい笑いが止まらなかったもん。で、タイトルは決まったものの、実際のアイドル事情がわからないから勉強しようと、「MEME TOKYO」コンベンションに当のでんぱ組を見に行ったんだよね。そこで、巻き起こる光景は衝撃的で、これまたカルチャーショック。最前列を「トップオタ(TO)」と呼ばれる熱狂的なファンの方々が占め、独特のオタ芸・サイリウムで熱狂的に盛り上がっているわけ。曲は曲で、でんぱ組という名の通り電波ソングが多くて、テンポ速くて、完全に未知の領域。果たして自分たちの曲はあの子たちに合うのだろうか……と不安に(笑)。
かせき

僕はそのライヴには行けなかったんですが、あえて事前に聴かないようにもしてたんです。もふくちゃんに、「今回はまったく違う路線でいきたい。好き放題やって欲しい」と言われてたのを真に受けようと思って(笑)。彼女は、かせきさいだぁのファンだったらしく、なんなら「苦悩の人」(『かせきさいだぁ≡』収録)みたいなのをって。さすがにあんなに暗いのはダメでしょとは思いつつも(笑)。

ただ、ひとつだけリクエストがあって、「結成メンバーの跡部みぅさんが卒業するに当たって、それを祝う曲にしたい、そしてライヴの最後に歌って締めたい」とのことでした。その流れで、アルバムのラストに収録されるのも決まっていて。

となると、卒業のもの悲しさはありつつもダンサブルな曲、これは木暮さんの得意分野である「サッドディスコ」路線でいくしかないと。ところで、「サッドディスコ」って一般用語なんですか(笑)。

木暮
まあ、あるっちゃあるね。もしくは「サッド・ダンサー」(※)。切なくて、踊りながら泣ける曲ね。

※Great3の片寄明人さんが名付け親らしい。

かせき
木暮さんはばっちりそのイメージどおり仕上げてきました。あとは、突拍子もない歌詞を書くだけだなって。
木暮
しっとりさは醸し出しつつも、普段の彼女たちのテンポが異常に速いので、そんなに遅くもできないわけ。あとは、ラップは入れるか入れないか、入れるなら分量はどうするか、そもそもかせきさいだぁのフロウを再現できるか、いろいろ迷いも出てきて。
かせき
結果的には、ラップはまったく問題なかったですね。物心ついた時からラップが身近な世代ですしね。彼女たち自身も親しんでいたという土壌があったのでしょう。
木暮
こんな感じで、曲とトラックを1週間という突貫工事で、間一髪間に合わせて。
かせき

歌詞も、レコーディング当日まで最終調整しなくちゃならないくらいギリギリでしたね。

そして、いざスタジオ入りしてみて、彼女たちが練習しているのが聞こえてきて、またびっくり。というのも、そう、でんぱ組って普段アニメキャラのような声で歌っていたんですよね。木暮さんと目を合わせて「普通に歌ってもらいましょう……」と。平静を装いつつ、頭抱えてしまいましたよ(笑)。

木暮
曲調的にキャラ声がハマる感じではなかったからね。もふくちゃんに「この曲は、普通に歌って」と口添えしてもらって、事なきを得たけど(笑)。
かせき
彼女たちは彼女たちで、普通の声で歌ったことないから不安だったでしょうね。普通は僕たちおじさんたちが歩み寄るべきなのに、父娘ほどの年が離れた彼女たちに歩み寄らせたかたちで申し訳ない(笑)。でも、曲が完成した時には、ガッツポーズが出ましたよね。
木暮
短期間というハンデをものともせず、さらに、たくさんの不安要素をひっくり返して、最高の仕上がりになったという珍しいパターン(笑)。
かせき

たいてい現場で「思ったのと違う……」ってなったりしますからね。完全に任せてもらえたし、最初の言葉どおり好きにやらせてもらえたし。よくある「うちの子たちそういうのNGなんで……」みたいないかにもアイドルなダメ出しも一切なし。

正直、くちづけキボンヌは各方面から全否定されてもしかたないくらいの覚悟はあったんですが、結果、お客様にも評価していただき、ライヴでも毎回歌ってもらえていますから。できあがったアルバム(※)を初めて通しで聴いた時には、一曲だけあまりにも異質でこりゃヤバいって思いましたけど。

『ねぇきいて?宇宙を救うのは、きっとお寿司…ではなく、でんぱ組.inc!』

木暮
最近のアイドルの曲を作っている作家さんたちからすれば完全に異邦人でしょ、僕たちって。でも、その異質感が功を奏したんだと思うよ。実際、跡部みぅさん卒業イベントが一段落したら、もう葬りさられてもしかたないと思っていたのに、新生6人ヴァージョンまで作られるとは。この曲をでんぱ組再出発の象徴にしてくれたってことでしょ。僕たちとしても自信になったというか、ソングライターコンビとして初めて評価された感かも(笑)。そうそう、こういうの目指していたんだよと(笑)。ミュージシャン仲間からも、「キボンヌ、いい曲ですね!」って声かけられるようになったからね。そんなこと滅多にないよ!
かせき
でんぱ組と僕たちの相性がよかったんでしょうね。共通点は、オタクっぽいところ、リア充じゃないところ(笑)。でんぱ組は、リア充集団じゃない、珍しいアイドルグループですからね。
木暮
敗北から始まっているところも追加で(笑)。
かせき

僕たちも負けが込んでいるから、お互いマイナス×マイナスで、結果プラスになったんでしょうかね。

あと、でんぱ組としても、活躍フィールドが秋葉原から渋谷に広がったというきっかけになったとのことで嬉しかった。「アイドルオタクだけじゃなく、普通のお客さんも増えた」って言われましたから。

――ところで、この「くちづけキボンヌ」と、HALCALIの「フワフワ・ブランニュー」の歌詞には、歌い出しの「時は『ブランニュー』」とか、ラップ部分の「現在 過去 フューチャー」とか、多くの共通点が見られますね。

かせき
同じコンビが作っているってっていう遊びですね、わかる人にはわかるように。
木暮
実は「フワフワ・ブランニュー」隠れた人気曲として評判が良いんですよ。HALCALIは、今でもたまにライヴのサポートでギター弾いているんだけど、ほんとライヴでもファンの皆さん盛り上がる。「くちづけキボンヌ」好きな人で、未聴ならばぜひ聴いて欲しいね。購入キボンヌ。
かせき
(笑)。あと、「現在 過去 フューチャー」と言えば、でんぱ組のライヴだと、「フューチャー!」の部分が、みんな叫んで、拳を突き上げる盛り上がりポイントになっているんですよね。ああ、こうやって曲は一人歩きしていくんだ、と感慨深くなりました。

――そして、かせきさんの「さよならマジックガール」のMVにでんぱ組出演と、交流が続きながら、2013年01月16日発売の「冬へと走り出すお」へと至るわけですね。第二弾を作るにあたって、おふたり、そしてでんぱ組の状況としてはどうだったのでしょうか?

かせき
今回はなんとヒャダイン(前山田健一)さんとの両A面シングルとのこと。さらに、CDリリース前からライヴでじゃんじゃん歌っていくと。つまり、冬のリリースにも関わらず、初秋には完成させなくちゃならないという相変わらずのタイトなスケジュール感でした。まあ、話聞いて、気分としてはただただプレッシャーですよ。
木暮
まず、でんぱ組の注目度アップにともなって取り巻く環境も変わったし、前作「くちづけキボンヌ」に見劣りするわけにはいかないし、同じ路線じゃ「ネタ切れだ」って抹殺されちゃうし。
かせき
何よりヒャダインさんと並べられる以上、自分たちのフィールドでベストを尽くすしかないなと意を新たにしました。寄せていったら負けるのはわかってましたし。

――「くちづけキボンヌ」のキーワードは、「サッド・ディスコ」でしたよね。それに対して、「冬へと走り出すお」はどんなコンセプトだったのでしょうか?

木暮

まずはタイトルからして、加藤くん捨て身の一撃(※)だよね(笑)。このセルフパロディぽいところもヒップホップマナーと言えるかもしれない。まあ、この曲名なら、ネオアコ一択だよね。

※説明するまでもないと思うが、「冬へと走りだそう」を踏襲している。

で、ライヴ見るとわかると思うけど、でんぱ組の魅力って、ガチャガチャ感というか、メムバー、お客さんみんなで騒げる賑やかさなんだよ。

その点、「くちづけキボンヌ」はお客さんが踊らずに、聞き入ってしまっていたんだよね。僕らとしては「サッド・ディスコ」、泣きながら踊れる曲のつもりだったのに(笑)。

かせき
「私たちもこんなバラード歌えて嬉しいです!」だなんて言われちゃったもんね。こっちとしては、「えっ、バラード?!」みたいな苦笑い(笑)。
木暮
というわけで、少なくともテンポは速くしないと。あと、ネオアコってもともとパンクのカウンターとして、60年代の古き良き時代の音楽への振り戻し、つまり、オーソドックスなポップのメロディへの回帰があるんだよね。そこで、どこかで聴いたことがあるようでない、そんなメロディを目指したわけ。そこにラップが絡むことで、面白いミクスチャー感が出るでしょ。
かせき
サウンドも、ネオアコってことで、もっとアコギがジャンジャカジャンジャカなのかと思ったら、定番のスライドギターはもちろん、なんとバンジョーまで登場(笑)。アイドルソングでは、70年代以降使われていないんじゃない?数十年ぶりなんじゃないですか?
木暮
バンジョーかわいいかなって思って(笑)。アグネス・チャンのバックでの細野(晴臣)さんやティンパンアレーのカントリーロックのイメージでね。実際、HICKSVILLEで「冬へと走り出すお」セルフカバーしているんだけど、真城めぐみが歌うと完全にカントリーロックになる。
かせき
結果、「すべてメムバー本人の手によるiPhone撮影」というMVの雰囲気の良さとも相まって、なんとか面目躍如できたんではないかと。それにしても、MVのラストでタイミングを計ったかのようにiPhoneの充電が切れるというハプニングが起きて、意図しない好演出になってるじゃない?勢いがある人たちには得てしてああいう奇跡が起きるもんなんですよ(笑)。

――時系列は前後しますが、今回再発した『トーテムロックEP+』(2013年02月06日発売)には、そのでんぱ組のねむきゅん(夢眠ねむ)をフィーチャリングした、「ホリデイ」(2012年09月26日配信)がプラス収録されていますね。

木暮

でんぱ組の中では、DJやっていることもあって、ねむきゅんが一番僕らの音楽に理解があってね。DJのみならず、絵も描いて、モデルもやって、イベントのオーガナイザーまでやってしまうスーパーガール。これまでのアイドルにはいないタイプ。

でんぱ組のレコーディングでも、単純にいい声だなって思ったので、いつか歌ってもらおうとは思っていて。

かせき
ちょうど、旧『トーテムロックEP』後に作った新曲「ホリデイ」を、先行して僕の『ミスターシティポップ』でセルフカバーしたこともあって、今回の再発を期にトーテムロックヴァージョンも新録して出そうって話が出てきたんです(※)。「それなら、ねむきゅんに!」と満場一致でオファー決定。そんな経緯ですね。

※実はトーテムロックのデモ版も存在する

木暮
「STAY TUNE(feat.キタキマユ)」同様、男臭いロックの世界に、女性ヴォーカルが混ざると映えるでしょ?

――というわけで、『トーテムロックEP+』]再発おめでとうございます!今回のインタビューでは、大活躍しているのに、なんとなく実体がつかみづらかったトーテムロックを大解剖することがテーマだったわけですが、最後に今後の活動について教えていただき、締めとしましょう。

かせき
最近、木暮さんに「新曲作ろう」って言われて、「えっ、トーテムロックの!?」と思ったら違って、ソングライターコンビとしての話でした(笑)。
木暮
そうそう、プレゼン用のデモ曲をね、どんどん作っていってね。いろいろなアイドルの皆さんに歌ってもらえたら嬉しいなと。
かせき
でんぱ組のおかげで、勢いづかせてもらっていますからね(笑)。もちろん、曲提供したら、セルフカバーもしますから、かせきさいだぁ、HICKSVILLE、そして、トーテムロックファンも安心(笑)。
木暮
この歳にして、「松本隆+筒美京平」という黄金コンビの背中を追うという、夢へのリスタートね(笑)。
かせき
いや、目指すは平成のNOBODY(※)で!

※ロックバンドにして、アイドルや様々なミュージシャンに曲提供を行うソングライターコンビ。アン・ルイス「六本木心中」、吉川晃司「モニカ」など、80年代の音楽シーンを彩った。

  • かせきさいだぁ OFFICIAL WEB SITE

Copyright © かせきさいだぁ All Rights Reserved.